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PAPERMOON — THE LUV BUGS, higma & 星宮とと
循環コード、浮遊するギター、低域の押し出しから「PAPERMOON」の洗練されたアレンジを読み解く。
BPM=145の心地よいメロディ・センスと安定した循環コードに、バーチャルシンガー・星宮ととのボーカルが映える良作。
ケロケロ系の効果を足したボーカルに、Breakbeats系のDrumsを中心として(サビでは4つ打ち)、Guitarの分散和音とベル系のPad(Arp)、加えてSaw系のPadが和声を確定させる構成となっており、シンプルで無駄のない、洗練されたアレンジが光る一曲である。楽曲全体で、G/C-(D)-G/B-Em7というコード進行(Key=Gメジャー)を維持し、Gのトライアドを保管するスムーズな形での進行が特徴。
本曲のプロデューサーであるhigma氏は、echo (feat. 初音ミク) や、バーチャルシンガー・somuniaをボーカルに迎えたながいよる (feat. somunia) などでも同様にBreakbeats系のビートを多用しており、本作も同様の系譜を辿った作品と言えるだろう。
本作の魅力
本作の音楽的魅力は、なんといっても、星宮ととの美しいボーカル、そして繊細で洗練された楽曲アレンジに集約される。
とはいっても、それらはさまざまな要素を集積した上での総合的な評価であり、単にその二点を強調するだけでは批評として不十分と思われるので、より本作の魅力を体感できるよう、各要素(コード・音楽的系譜・サウンドメイク)に着目して各論的に分析し、この楽曲の内奥に深く迫れるような解説を以下に記してみた。
ギターの分散和音が生み出す浮遊感
イントロから最後まで、G/C-(D)-G/B-Em7[I/IV-(V)-I/III-VIm7]という進行が循環する。Gを保存したまま、ベースラインがC-B-Eと移動していく形である。こうした安定した進行に支えられている一方、ギターのアルペジオには、コードの構成音からやや外れた第2音・第7音も破綻なく取り入れられている。特に、最初のG/CにおいてはギターがF#を弾いており、和声にM7thの質感が生まれることで、少しアンニュイな雰囲気が楽曲に漂う点は、この曲の世界感が効果的に構築されているという意味で見過ごすことはできないだろう。響き全体としてはCをベースにしたmaj7〜#11系の浮遊感も帯びており、この二重性が楽曲のアンニュイな質感を支えているとも考えられる。また、イントロからサビにかけて配置されたボーカルチョップも、世界感の構築に一役買っている。ボーカルにかかったLowpass Filterは、ちょうどクリーンギターの音色と上手い具合に調和するようにかかっており、イントロから8小節後にドラムスが入るタイミングでややフィルターのかかり具合(周波数スレッショルド)が開き目になって、星宮ととの箱庭的・幻想的な声色とマッチすることで、この世界感は決定的に完成される。
やや過剰とも言える低域=空間的拡張の効果
また、日本の同人系Liquid DnBに特有の、リミッター(サイドチェイン)によるポンピング効果を狙ったやや過剰とも言える低域(BD・Deep House Bass)の押し出しは、ややマイルドな質感を感じさせる上物(ギター・ボーカル)との鮮明なコントラストを与えている。これによって、楽曲は単なるアンニュイな雰囲気を脱して、立体的な広がりを持つようになる。換言すれば、それまでギターとボーカルの和声的調和によって彩られていた水平的な音楽空間から、バランスの破綻した低域の押し出しが、空間に上下方向の拡張をもたらしているのだ。
サビ前→サビへの「超」品の良い移行
Bメロで一度消えたキック(BD)が戻ってくることでサビへの高揚感が生まれていく一方、サビ直前ではBDを含めたほとんどのパートが一度沈黙する。その間隔を埋めるようにボーカルがサビ頭へと持続するのだが、ここでボーカルに3度下(?)のコーラスが付け加えられていることで、楽曲はさらなる重層的な厚みを持つに至る。この効果は絶大である。
BDの八分での連打によって蓄えられた推進感・高揚感をそのままサビへと着地させるのではなく、あえてボーカルとその下に位置するコーラスにエネルギーを集中させることで、サビ頭でBメロからの推進感を失うことなく、サビ全体にわたって音楽的エネルギーを保持させることが行われている。この省エネなサビ前のアレンジでは、最終的にBell Pad・ボーカル・HHの3パートのみが残存するが、この音楽的判断が生み出す上品な構成によって、サビ頭では蓄えられた推進力を利用して、地に足がついたスタートを切ることが可能になる。繰り返すが、とても品の良いアレンジであるし、また先述のコード進行から変わって、サビ前ではC-D(IV-V)となっているところも、このスムーズな移行において重要な要素であることも忘れてはならないだろう。