少し年下の友人たちへ。 日々、勉強や部活動、友人との交流など、高校生の皆さんは忙しい毎日を送っていることと思います。15~18歳の時期といえば、自分の将来について、これまで以上に真剣に考え始める時期ですよね。どんな大学に進学しようか、どんな仕事に就きたいか、そして、どんな大人になりたいか。期待とともに、少し不安な気持ちもあるかもしれません。この記事を書いている私も、だいたい2年くらい前までは、みなさんと同じ高校生でした。高校を卒業した後、イギリスの大学に進学し、日本にいた頃とは様々な価値観が変わったように思います。今は本当に変化の激しい時代です。2年前の常識は今の非常識と言っても過言ではないと思います。それを象徴するのが、昨今のAIの発展や、トランプに代表される、国際関係の価値観の変化だと私は考えています。この記事では、2年前の自分、そして今高校生として学んでいるみなさんにあてて、私が高校を卒業してからの1年間でみてきた世界や考えてきたことををご紹介します。加えて、同じ志を持つ人たちや、その近しい方々(親、先生)に向けての、ちょっとしたアドバイスを交えてみました。こんな先の見えない時代だからこそ、大切になるのが、自分自身で考え、進むべき道を見つけ出す力です。周りの情報に流されるのではなく、しっかりと自分の足で立ち、未来を見据えるための「羅針盤」が必要になります。少し長くなりますが、皆さんの未来に関わる大切な話ですので、ぜひ最後までお付き合いください。 目次 AIはもう隣にいる。変化の大きさに気づこう。 AIは、もはや遠い未来の話ではなく、私たちの生活のすぐ隣にある、身近な存在になっています。ChatGPT-3.5がリリースされたのは2022年のことでした。当初、まだダサいGUIとハルシネーションだらけのChatGPTは、一部のAIオタクを除けば、普通の人たちにとっては「すごい時代になったなあ」という程度に感じるだけのもので、面白さは格段にあったけれども、これをどう使えばいいのかわからないし、だいたい実用に使える安定性ではありませんでした。しかし、未来の蓋を開けてみれば、AIの破壊的な発展は、2022年以前の人からすれば到底信じられない結果をもたらしています。ここでその発展について詳述することはしませんが、とにかく、AIを使わない、AIを使えない、という人にはもはや先はないと私は考えています。なぜなら、AIを効果的に使える人とそうでない人で、生産性に著しい隔たりがあるからです。例えばこの記事も、半分ほどはGemini 2.5 Proが書いています。それを人間である私が修正しているわけです。この記事を一から書こうと思うと、最低でも3時間ほどはかかってしまうと思いますが、LLMを使えば1時間で書き終えることが可能です。 でも、AIの本当のすごさは、便利な道具というだけではありません。AIは、社会全体の仕組みを変えるほどの力を持っています。例えば、これまで人間が行ってきた仕事の一部をAIが担うようになるかもしれません。そうなると、皆さんが将来どんな仕事に就き、どんなスキルを身につけるべきか、ということにも大きく関わってきます。これは、大げさな話ではなく、歴史の教科書に出てくる産業革命や、皆さんが生まれた時から当たり前にあるインターネットの登場と同じくらい、あるいはそれ以上に大きな変化の始まりに相当します。トーマス・クーンが唱えた「パラダイム」という概念をご存知でしょうか?コペルニクスが地動説を提唱し、ガリレオが天体観測でそれを実証した前と後の世界では、異なるパラダイムが存在します。要は、世界の価値観=世界モデルが根底から覆る瞬間というのが、人類史にはあるのです。今のAIの力というのは、確実にそういった変化を社会にもたらします。だから、AIについて知ることは、これからの時代を生きていく皆さんにとって、とても大切なことなのです。難しく考える必要はありません。まずは、「AIってなんだろう?」「私たちの未来にどう関わってくるんだろう?」と、関心を持つことから始めてみませんか。 大人の言うことは絶対?変化の速さと経験のズレ ここで、少し皆さんに考えてみてほしいことがあります。皆さんの周りにいる大人たち、例えばご両親や学校の先生方は、このAI時代がもたらす変化の速さや大きさを、どれくらい理解しているでしょうか。もちろん、大人たちは皆さんのことを想い、自分の経験に基づいて、たくさんのアドバイスをしてくれます。それはとてもありがたいことですし、学ぶべき点もたくさんあります。ただ、一つだけ心に留めておいてほしいのは、そういった大人たちの経験や現状分析が、必ずしもこれからの時代に通用するとは限らない、ということです。なぜなら、社会の変化があまりにも速すぎることにより、過去の成功体験や常識が、あっという間に古くなってしまう可能性があるからです。 よく、現代の価値観の変化の一例として「良い大学に入って、大きな会社に就職すれば、将来は安泰だ」という考え方を否定し、「学歴偏重主義」を非難する価値観がこう言った文脈では紹介されます。しかし、実はこういった価値観は昭和の時代から提唱されてきたものです。SONYグループの創業者の一人、盛田昭夫氏は『学歴無用論』という本を1966年に出版しています。書かれている内容は、現代の学歴に対する価値観の変容と同じものです。つまり、学歴が個人の能力を決定的に測るものではない、という意見です。ここで考えていただきたいのは、60年ほど前から言われてきた意見というものが、この令和の2025年になっても未だ唱え続けられているという事実です。なぜ、このような意見が未だ人口に膾炙する「途上」にあるのかというと、それは学歴に対する価値観が60年代から碌に進化していないからです。学歴というものが、大学の名前を意味する古いパラダイムはすでに死滅しつつあるというのに、日本では未だに「大学の名前」を重点に置いた学歴主義への批判が行われています。これは極めて危機的な状況にあると私は考えます。イギリスでは、もはや博士(Dr.)の学位を持った人間でも、学位だけで研究職を得ることが難しくなってきています。追加で違う分野の修士を持っていたり、実務経験(業種によりますが)を持っていることで、ようやくキャリアに付加価値がつき、研究職や教授職のポストをゲットできるわけです。おそらくこういった状況は、日本でも同じなのではないでしょうか。何が言いたいかというと、大学院に行くことがキャリアの大前提になっているということです。特に理系の研究者では院はマストでしょうし、文系でも修士を二つ取ってから就職する、というのが増えてきていると思います。あくまで私が様々な人と会ってきた中での話ですが、本当により良いキャリアを積みたければ、複数の専門領域で修士(博士)レベルの知識を持ち合わせていないと、一流企業や高収入の場には到達できないよね、というのがヨーロッパの学生の共通見解だと思います。これはアジアでも同じです。韓国や中国の就職難はご存知の通りですが、ものすごく競争率の高い労働市場が形成された結果、韓国人のトップ層は学歴インフレを起こしつつあります。博士を持っていても企業の研究所や大学の研究機関には就職できない。そればかりか、非研究職の場においても就職が難しいという現状は、韓国人の若者に強い国際志向を生み出しています。事実、イギリスの大学には多くの韓国人が入学してきています。そのほとんどが、奨学金ではなく完全な私費留学です。私がベルリンで出会ったソウル大学の博士課程の学生によれば、韓国の研究所は高い資金力を持っているけれども、まず人を雇うポストが不足しており、韓国の社会構造に異を唱えて海外に出る学生も多いということです。その彼も、ベルリンで何をしていたかと言えば、ポスドクができる研究所をヨーロッパ各国で探していて、ドイツでチャンスを掴もうと数週間かけて欧州視察に来ていたのでした。3~4年間で3500万円ほどかかる留学が可能である資金力、そして高い英語力を持つ韓国人と比べれば、日本の平均的な学生の国際的なプレゼンスはかなり低いと言わざるを得ません。だいたい本当のところを言えば、英語はできて当たり前なので、それ以外の第二言語も話せた方がいいと思います。(ここは私も最近反省しています。) こう言った現状は、私の感覚では日本の一般的な高校ではあまり理解されていないように感じます。しかし、上記のような現状を理解しないまま、日本のガラパゴス化した学生市場に足を踏み入れてしまえば、待っているのは最悪の未来です。イノベーションどころか、国際的な競争力を完全に喪失した日本国は、超高齢社会、少子化、地球温暖化といった要因に引きづり込まれて、完全に「置いていかれ」ます。多数の国民が餓死する未来も、私はあり得ないことではないと思います。一方で、悲観的な話ばかり話していては、意味がありません。こういった現状を理解し、社会の価値観を変容した上で、改善と改革を続けていけば、日本は80年代のような圧倒的な国際競争力を取り戻すことができると私は考えます。こういった情報はなかなか受け身の姿勢では掴んでくることができません。というか、大事なのは情報そのものではなく、そこにまとわりついている価値観とか「雰囲気」です。それは、自分から意識して人に出会い、情報を探すことでしか得ることができません。最終的に自分の道を決めるのは、他の誰でもない、皆さん自身です。そのためには、色々な情報を集め、自分で判断する力を養う必要があります。 世の中の変化のスピードが、もはや追いつけないほど加速しているという現実 大人たちの経験則が必ずしも通用しない可能性がある、という話をしました。その最大の理由は、現代社会の変化のスピードが、もはや尋常ではないレベルに達しているからです。皆さんは「ムーアの法則」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? これは、半導体の性能が約2年で2倍になる、という経験則で、コンピューターの進化を象徴するものとしてよく引用されます。まさに、技術の進歩が「どんどん速くなる」指数関数的な変化を示している例です。 この指数関数的な変化というのは、最初はゆっくりに見えても、ある時点から爆発的に加速するのが特徴です。1が2に、2が4に、4が8にと倍々で増えていくイメージですね。これは技術に限ったことではありません。資本主義社会における資本の発展は、まさにこの指数関数的なカーブを描いていると、多くの専門家が指摘しています。PayPalを創業した著名な起業家であり投資家でもあるピーター・ティールは、その著書『ZERO to ONE』の中でこう書きます。 実際にベンチャーキャピタルから資金を調達できるのは、アメリカで毎年生まれる新規企業の一パーセントにも満たないし、ベンチャーキャピタル投資の総額はGDPの〇・二パーセント未満だ。それでも、こうした投資の果実は経済全体を前進させるほどの大きな影響を持つ。ベンチャーキャピタルが支援する企業は、民間雇用の一一パーセントを創出している。これらの企業が生み出す収入はGDPの二一パーセントにも上る。事実、規模上位のテクノロジー企業一二社には、いずれもベンチャーキャピタルの資本が入っている。この一二社を合わせると、企業価値は一兆ドルを超える。つまり、その他すべてのテクノロジー企業の合計よりも大きな価値を持つということだ。 ピーター・ティール; ブレイク・マスターズ. ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか (Japanese Edition) (pp. 143-144).[…]